三国志、読んでます
青空文庫にあるのを発見したので、一ヶ月程前から三国志(著:吉川英治)を読んでいます。
まだ読み途中で、ようやっと臣道の巻まできました。場面としては呂布が倒され、曹操が帝を蔑ろにするような態度を取って反感を買うようになった辺り。
そもそも、どうして三国志を読み始めたかというと、『名前はあちこちでよく聞くけれど、どういう話かほとんど把握していないな』ということを思ったため。
かろうじて名前だけでも知っている人物と言えば呂布と関羽くらいなものですし、それも『何か強い人』くらいの認識でした。
で、読んでみたところ、中国史に全然興味がないのでどうかなと思っていたのですが、これが意外なくらい面白いです。
以下、ネタばれが多いです。
関羽は劉備に付き従っている人なのか! ということがわかったり、作中の人物の栄枯盛衰ぶりなど。
劉備という漢室の末裔が主人公というのも初めて知りました。
実のところ、読み始めた頃は劉備ってマザコン……?と思ったりもしたものですが、ここまで読んでくると登場人物は共通して母親を大事にしている、ということがわかり、当時はそういうものだったんだ、と得心がいきました。
ただ、一方で女性の立場の微妙なこと。
特に驚いたのが、草莽の巻で劉備が劉安という人物のところに身を寄せた際、劉安がもてなしのために妻を殺してその肉を差し出したところ……。
この場面では、作者の吉川英二が下記の文章を読者宛てに差し挟んでいます。
読者へ
作家として、一言ここにさし挟むの異例をゆるされたい。劉安が妻の肉を煮て玄徳に饗したという項は、日本人のもつ古来の情愛や道徳ではそのまま理解しにくいことである。われわれの情美感や潔癖は、むしろ不快をさえ覚える話である。
だから、この一項は原書にはあっても除こうかと考えたが、原書は劉安の行為を、非常な美挙として扱っているのである。そこに中古支那の道義観や民情もうかがわれるし、そういう彼我の相違を読み知ることも、三国志の持つ一つの意義でもあるので、あえて原書のままにしておいた。
読者よ。
これを日本の古典「鉢の木」と思いくらべてみたまえ。雪の日、佐野の渡しに行き暮れた最明寺時頼の寒飢をもてなすに、寵愛の梅の木を伐って、炉にくべる薪とした鎌倉武士の情操と、劉安の話とを。――話の筋はまことに似ているが、その心的内容には狼の肉の味と、梅の花の薫りくらいな相違が感じられるではないか。
そしてそれに感じ入った劉備が都に勤めては、とすすめたところ、劉安はこのように答えます。
「思し召はありがとうぞんじますが、手前が都へ行っては、ひとりの老母を養う者がありません。老母は、動かせない病人ですから、どうもその儀は」
ここからも、母(というか親)を大事にする文化がうかがえます。
だからといって登場人物達が妻や子を愛していないかというと、そういう訳でもないんですよね(呂布など嫁にやる娘を背負ってまで守ろうとしてます)。ただ、何といえばいいのか……大事だし愛してもいる。でも取り替えがきくというか、唯一無二のものではない扱いをしている。そんな感じです。
娘は親の意思でぽんぽん嫁に出されますし、血縁関係を作って勢力図を拡大しようとするくだりを読んで、なる程なあと。
しかし、子から親は唯一無二の存在で、何を置いても大事にしなければならない。
確かに血縁重視の理屈で言えばそうなので、こういう思想だったのか~と納得。
当時の思想について、こういう発見がちょくちょくあって面白いですね。
それから、人取り合戦が熱い!
優秀な人材はどんどん引き抜きをかけますし、敵とは言え殺すのに忍びなく、部下にならないかと勧誘したり。
登場人物も、自分の意思で仕える人を見極めて、主を見限ったら敵方に下りもするし、虎視眈々と背後を狙ったり、足を引っ張ったり、逆に忠義を貫いて死ぬまで一緒、ということもします。
その中でも陳宮(曹操の部下→呂布の部下になった人)は忠義を貫いて最期を呂布と共にしましたけど、上司に恵まれない人でした。
曹操の非情ぶりを見限って呂布に仕えたのに、当の呂布は政治や戦略に疎く、諫言をしても聞き入れられず……。
一方呂布はというと、唆されて養父を殺してしまったり、何か提案を聞けばそれがいいかもと思ったのに、妻や懇意にしている人物が反対すればそれまでの考えを翻し、諌められてやはりそちらに……と政治に関する能力は低かった、という描写をされています。
……個人の武術の技量としては他に並ぶ者がない程なのですが、天は二物を与えず。
しかし娘を溺愛したり、貂蝉という女性に翻弄されたり(そして彼女が死んだ後その面影を求めたり)、どうも女性には弱いようです。
恩を恩とも思わず裏切ったり、直情的で、私利私欲に走りやすく、女性に弱く、思慮が足りず……と欠点を挙げれば限りないですけれど、それでも魅力ある人物なのが不思議なところ。陳宮もその魅力に引かれてついていったのかも知れません。
呂布が部下の裏切りによって倒れたのは、因果応報でしょうか。
それとは対照的に、感情をあまり表に出さず、慎重に事を運び、情に篤く、志はあっても欲深くなく、政治や戦略に関しても手腕を発揮する劉備(でも世渡り下手なところはあるかも)。この人がどんな風になっていくのか楽しみではあります。
と、このようにかなり楽しんでいる三国志ですが、最初は読むのがちょっと辛かった。
何故って、単語や漢字がよくわからなくて……それから言い回しが現代のものではないところも引っかかってました。
でも、慣れれば段々読めるようになりましたし、何よりi読書というアプリの辞書機能に助けられています。
(単語を選択すると、辞書が使えるんです)
まだ全体の半分にも来ていませんが、こんな面白いものを食わず嫌いで読まなかったとは……いえ、昔だったらやっぱりあまり楽しめなかったのかも知れません。
紙の辞書を何度も引きながらでは、テンポが悪いし面倒になってしまいそうです。