【書評】離婚してもいいですか?
本屋さんでタイトルが気になったので手に取ったのですが……こういう状況にいる人、(夫も妻も)たくさんいそうです。というか、エピソードのひとつひとつを取ればありふれ過ぎています。
靴下を丸めて脱がないで、とか何度注意しても直してくれないとか、子どもよりもパソコンばっかり見ているとか。
妻(主人公)に対する見下し発言、指摘すれば逆ギレ、モノに当たる、家事育児丸投げ……というのはDVだしモラハラなのですが、夫側に自覚はなしのようです。
そういったことの積み重ねでもういっぱいいっぱいになってしまった妻が離婚への意思を心の奥底に抱える、という話。
読みながら、うーん……と考えてしまいました。以下書評です。
結論から言うと
結局夫から殴られたりなど(その後謝られましたが)色々あって離婚への決意を固めますが、子どものために一旦は離婚は取りやめます。期待するからいけないってわかってる
小さな期待が次々とくだけて
チクチクとつきささりながら私の中につもっていく
作中でこんな風な言葉がありますが、結婚に限らず、こういう風に人間関係が静かに壊れていくことってありますよね……。
途中、リストラになりそうな夫が妻のことを『ちゃんとお前も稼いでくれてたらな』みたいになじるのですが、『稼ぎがあったらさっさと離婚してる』と内心妻が思っているのが、作中の夫婦の関係性を物語っています。
ここまでいくと、人間関係を修復するのは並大抵ではないな……と。
他の人から見ると、ぜんぜん大したことなく見えてしまう
上で挙げましたが、起こることはとても些細なことが多いんですよ。靴下を丸めて洗濯籠に入れるとか。
どこそこが汚れてるよと妻に言うだけで自分は何もしないとか。
子どもよりパソコンの画面ばっかり見ているとか。
で、そういうことを妻はパート先の人に愚痴ってみたりするのですが、そんなの全然大したことがない、優しそうな旦那さんじゃない、というようなことを言われてしまうのですよね。
確かに、ひとつひとつを取り上げたら大したことじゃないんですよ。夫に限らず、このくらいのイラッとすることくらいは人間関係で結構起こります。
ただ、そういった些細なことが積み重なること、他人と違って容易に離れられないことが問題を根深くしています。
人間は変わらないという独白は、妻自身にも返ってきている
作中、人間は変わらない、という妻の独白が何度か出てきます。そして妻は一旦は離婚するのをやめたものの、その後は心の中でそう呟きながら、夫を信用せず、一線を引いて生活するようになります。
ただ、妻は変わろうとはしたのです。怒らせてもいいから、思ったことをきちんと伝えようと。その結果殴られてしまう訳ですが……。
それがきっかけで離婚の決意を固め、子どもの手を引いて、引っ越し先候補のアパートの前に来て、『お母さんと一緒にここに住もう』と妻は言います。
でも子どもは『お父さんとお母さんが一緒にいて欲しい』と言って嫌がるんですよね。
夫も二度と殴ったりしない、と言ってもきてるし、リストラもなくなった。そう、すべては元通りになりました。
離婚の二文字が浮かび続ける生活に戻ってしまったのです。
余談など
作者の方は、受け取り方はそれぞれあると思う、とあとがきで述べています。という訳で、私が思ったことなのですが。
この主人公、自分では大事な決断をしていないんですよね。
途中で離婚を決意して――でも結局は、その判断を子どもに任せてしまった形です。
いくら母親が殴られているのを目の当たりにした直後であっても、まだ幼い子どもがそういう決断を迫られたら、現状維持を選んでしまうと思うんですよね。父親が好き、という描写がありますし。
大事なことは、本当に自分が望むことは人任せにしたらいけないと思いました。
また、ひとつひとつは些細な問題の積み重ねについても、安易に『そのくらい』とは言っては駄目だなと。人間関係では、じわじわ積み重なることが実は一番怖い。
特に簡単に離れられない『家族』となればなおさらです。
足元の深い闇を指差された気持ちになる……。
イラストはほのぼの系なのですが、『夫をお金を運んできてくれる人と思おう』とか『人は変わらない』とか……読んでいて底冷えのする本でした。
ちなみに、こちらで数話無料で読めるそうですので、興味があればどうぞ。
その2文字が浮かばない日はない|離婚してもいいですか?|野原広子|無料WEBマガジン コミックエッセイ劇場