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【書評】逃げるは恥だが役に立つ1~5巻

逃げるは恥だが役に立つ(1) 逃げるは恥だが役に立つ(2) 逃げるは恥だが役に立つ(3) 逃げるは恥だが役に立つ(4) 逃げるは恥だが役に立つ(5)

読みました。

あらすじは、派遣切りにあってしまった『森山 みくり』が、『津崎 平匡』の家で家政婦のバイトを開始。しかし、みくりは実家の引越しのためバイトを辞めなければならなくなる。
ちょうど仕事にも慣れてきたところだった上、平匡も仕事の相性の良かった家政婦を手放すのは惜しい。そこで、事実婚という形で『仕事として妻となる』ことにするのだった……というものです。

『仕事としての妻』というのは、なかなかどうして興味深い内容でした。

という訳で、以下書評です。※ネタバレあります。

妻という仕事

妻と言ってもみくりの場合は家事労働力を買われての妻という仕事です。他はお互いの実家に対しての対応なども含まれます。労働時間は決まっていて、もちろんお給料もちゃんと出ています*1

あくまで『仕事』として事実婚をした訳なので、夫婦生活などはなく、外に恋人を作っても良い(ただし周囲には隠す方向で)というこまごました契約事項があります。

傍から見れば専業主婦のみくりですが、妻という仕事をしている訳です。

家事労働の報酬

作中で、みくりは平匡と関係を進めて結婚することを考える上で、『給料がなければこんなにきちんと仕事(家事)はしない』という趣旨のことを言っています。

好きな人の面倒を見るのがやりがいでしょって言われて報酬ないってある意味ブラック企業なんじゃないかって

引用:逃げるは恥だが役に立つ 4巻

私も正直ここには同意する気持ちが強いです。共働きであれば家事の分担という手もありますけれど、それでさえ不公平感は出やすいところですし、ましてや専業主婦で「専業主婦で家事をする代わりに夫からお給料もらっています」というとひんしゅくをかうのではないでしょうか。

けれどそれは要するに『食べさせてもらって家に居るんだから家事はやるものだろう』という考えの上に立っているものだし、生活する上で必要なことで外部からの賃金は発生しなくてもやっぱり労働ではあるんですよね。
それに、そういった風にしていると『家のお金』という感じで専業主婦の妻が自分のためにお金を遣うのを躊躇う、というのもありますし。自分で仕事してお金稼いだよ! っていうのは大事な感覚だと思います。

同じことをしているのに家政婦に対しては賃金を払って妻は無給で当たり前、というのはなぜなのか、と思う訳ですが、平均的なお給料で年中無休の家政婦を雇うのも現実的ではありません。

作中のように時間や労働条件を決めてお給料を出し、家賃や食費などは妻・夫両方で割り勘というのは合理的だと思いました。

発展していくふたりの関係

しかし契約としての結婚ではありますが、男女が一緒に暮らしていれば(そしてお互いに印象は良い)進展はあるのです。

今のところみくりの方が関係を進めようと押していってます。ハグの日とか。恋人という契約をしようとか。

高齢童貞(推測)の平匡は草食系でたじたじですけど、たまに変な風に針が振り切れます。

妻という仕事と発展していく関係で、どういうところに落ち着くのか楽しみではあります。

余談その1:みくりや他のキャラクター

みくりは心理学の勉強をしており(しかも大学院)、ところどころに分析が挟まるんですよね。基本的に合理的で頭も良いのですが、たまに変な方向(妻としての仕事とか)にいきます。

他、自分の状況をミュージカルとかパロディ調で妄想していたり。

一方で恋心も忘れていないし、基本的に可愛い。バランスの良いキャラクターだなと思います。

平匡は草食系高齢童貞(推測)だけあって、性格はクールで仕事もできる人なんですが恋愛方向では中学生かという程振り切れる瞬間があります。

他合理的なイケメンやゲイ、妻子持ちの同僚、高齢処女の叔母などキャラクターが濃いです。

余談その2:現代の問題のあれこれを扱っている

私が気がついた限りでも、現代的な問題にかなり触れています。

  • 高学歴でも就職先がない
  • 派遣切り
  • 家事労働への対価
  • 結婚問題
  • 雇用創出
  • 夫婦問題

など。

特にこれらのことに対して解答となるようなことが描かれている訳ではないのですが、興味深い。そもそも、そう簡単に答えが出るような問題ではないですし。

あくまで個人の範疇でこういったことに思考を巡らせる、といった流れでちょくちょく顔を出していきます。

*1:家政婦時代は時給2000円。『妻』となって以降は金額は明示されていないが、少なくとも家賃を折半できる程度の給与の支払いはある模様。