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たそがれノート

日記と本と、時々Web

【Web】実際Web制作は厳しいです

Web

Web業界はあまり先が見えない、という意見をよく見かけるのですが、実際現場で働いていて、Web制作に関しては採算を取るのが難しいレベルにはきている……とは感じています。

という訳で、Web制作の現場で働いている人間の、割と忌憚のないお話です。

Web制作の実態

サイトの制作は、コーディングからの制作時間であれば10数ページ程度のものなら数時間~数日でしょうが、それを5万とか、そういうレベルでやっていたらかなり厳しいです。5日かけてしまったらもう日給1万円です。仮に1ヶ月に20日間、その速度で仕事を続ければ月収は20万円。

そんなに悪くないのでは?……と思われるかも知れませんが、コーディングの時間は、制作に必要な時間の内の半分にも満たないのです。

サイト制作はコーディングをしてサーバにアップするだけでなくて、その前段階――使う技術を選択したり、コンテンツの内容を考えたり、デザインを決めたり、そういった部分にとても時間がかかる。また、きちんと管理できないと無限大の修正・追加地獄になって作業量が膨れ上がってしまいます。

3ヶ月でサイト完成。代金は5万円。ではとても食べていけません。

それもひとりですべて行うならまだしも、制作時に数人で1サイトに関わっていたら、余計に採算は取れなくなってしまいます。なので制作会社は、かなり多くの案件を掛け持ちしているはずです。

たくさんの案件を掛け持ちする理由

三ヶ月で5万円の収入では食べていけないと上で言いましたが、では3ヶ月に12件のクライアントを掛け持ちしたら、総収入は60万円。少しは現実的です。

この数の掛け持ちだと、各クライアントに対して、使える時間は40時間程度になります。仮に10時間をコーディングやアップ作業に使うとして、残り30時間で打ち合わせ・デザイン・コンテンツの準備・素材の手配・サーバの構築など諸々を行います。

1サイトの制作時間に40時間、というとかなり余裕があるように思えてしまいますが、こういった諸々まで含めると、実際のところ余裕はほとんどありません。

しかしなぜこれでもなんとか回せるかというと、クライアントや上司の確認や原稿を含めた素材入手のための『待ち』の時間がそこそこあるからです。

Aのクライアントの待ちの間に別のクライアントBの案件を進める。Bの案件が待ちの間はCかDを。Cが少し進んだところでクライアントAから連絡がきたので対応……といった具合。

なるべく空きの時間を作らないよう、そうせざるを得ないというのが多くの制作会社の現状です。

更に付け加えるなら、1サイト制作して5万円、制作時間40時間と考えると時給は1250円程度……なかなか辛い金額となります。

掛け持ちの問題点

飲食店が昼時に混むように、なぜか示し合わせたように一斉に掛け持ち中の複数のクライアントから連絡がくることがよくあります。

当然、一時的にでも無理をして仕上げる訳ですが、それでリカバリーできることはあまりないです。

それは無理をするために、余裕のあったはずの別のクライアントの時間を削るということがままあるからです。

制作会社の業務が過酷なことが多いのはこういう理由もあります。

良いものを作ってもプレゼンしないと売れない

クライアントはプロではないから評価がうまくできない、というのは当たり前の話なんですけれど、そこを上手に説明してクライアントに納得してもらう、というプレゼン能力が求められていると思います。

職人気質の人だと、このプレゼンという部分が難しいので、職人とクライアントの間を上手に橋渡しできる人が、今一番不足しているのではないでしょうか。

また、いいものを作っても知ってもらわないとスタート地点にすら立てません。モノがこれだけ溢れている時代、なにもしなくても砂粒の中から見つけてもらえる可能性は低いです。

なので自分の苦手を補ってくれる人がいない職人気質の人は、かなり厳しい時代だと思われます。

採算をとれるようにするには

どうやって採算を取れるようにするかというと、

  • 安いところに外注に出す
  • 制作時の手間を減らして効率化する
  • 料金を上げる
  • もっとたくさんの案件を同時進行する

のいずれかになります。日本の人件費ではどう頑張ってもコスト面で海外に勝ち目はないですし、この状況が続けば、今後、Web制作というのは縮小してしまうのではないでしょうか。
Web制作の費用のほとんどは人件費ですから、コスト削減のためにはどうしてもそうなってしまいます。

日本でWeb制作を続けるのであれば『料金を上げる』という手法を取りたいところですが、これも多くの会社にとってはなかなか難しいことかと思います。

料金を上げるにはどうすればいいのか

料金を上げるためには、現状では『付加価値をつける』の一点しかありません。

付加価値というのは、質だったり、コネだったり、他にはない独自の強みだったり、オプションをつけたりグレードを上げたりといったことになるかと思いますが、この内『質』についてはあまり良い展望はないと考えています……なぜなら、質と一口にいってもその評価は非常に難しいからです。

昨今のサイトは基本的に運用するものなので、制作段階で質というのは判断しづらいし、クライアントの側で正確に判断もしにくい部分だからです。

デザインが素敵なら質が高いとは一概に言えないですし、ユーザインタフェースが素晴らしくてもクライアントは気づかないかも知れない(むしろ良いインターフェースほどストレスがないので気づかれない可能性も……)。

ましてや、見た目に関係のない、ソースコードの美しさなどというのは、クライアントにとってはまったく評価に値しない部分かと思います……私はコーダーなので切ないですが。

Webサイトにはなにかしらのゴールや目的があって、それをきちんと達成できていれば質の高いサイトと言えます。しかし、その目的を達成できたかどうか、あるいは達成できるのか……というのをきちんと評価してくれる人が、どれだけいるかというと、難しいところではないかと思います。

となると、わかりやすいのはオプション式や独自性、強みを生かしたりグレードアップなどで料金アップを提示することではないでしょうか。

これができない・あるいはしづらい企業やフリーランサーだと、『安さ』という至極簡単な付加価値をつけるしかなく、受注件数は増えても果て無き価格競争・過酷な労働環境に巻き込まれることになります。

  • クライアントはWeb制作に対してうまく評価ができない。
  • 制作者とクライアントの橋渡しをする人材の不足
  • 料金を上げるほどの付加価値が打ち出せない制作側が多い。
  • 可能な限り安く買いたい人がいる。

ということがあって、今不健全な価格競争に陥っているのではないでしょうか。Web業界に限った話でもないですが、こういう構図はイラスト業界などでも問題になっていますよね。

お金を払うのは完成品に対してだけではない

根本的な話ですが、Web制作に限らずどんな職業にしても、『完成品に対してお金を払う』という意識が社会全体から抜けない限り、制作中の修正地獄含めこういう不健全な状態は続きそうです。

Web制作はその費用のほとんどが人件費です。完成品に対してお金を払う、という意識だとその人件費という部分に考えが及びにくいと思います。単なる電気信号の塊のデータに値段はつけられません。

しかし時給換算で支払いとなると、だらだら仕事しますよね。長くかければかけるだけお金になるのだから、当たり前です。時給の場合、作業時間の効率化は収入を減らすだけです。

以前プログラマだった経験からして、『人月』計算もしっくりしません。プログラマに限らず、作業効率は人や環境によって雲泥の差があるので一律で人月に当てはめてしまうのも問題だなあと思うわけです。不正確な単位です。

個人的には、クライアントがそのサイトによって儲かった金額の1割など、一定の割合を制作後から毎月もらうとか、そういうのは良さそうかなと思います。

効果の出るものを作ることができれば収入は上がるし、クライアントの方もサイトの効果を真剣にチェックし続ける視点に繋がるような気がするのですが。

まとめ:気軽に人に薦められる仕事ではありませんが、私はWebが好きです

上記の問題に加え、Web業界は次から次に新しい技術が開発され、その上日本においてはIE8以下、時としてIE6*1などの古いブラウザに対応し続けなければならないという状況です。

そういう仕事があまり好きではない人には長くは耐えられない環境でしょうし、まして気軽にWeb業界いいよ、ともお薦めできません。

それでもなぜ私がこの業界に入ったかというと、インターネットに初めて触れた中学生の時の、パソコンを通して世界と繋がっているという不思議な、それでいてとても楽しく開放されたような感覚が原点です。

どんどん情報が増えて、ごった煮のようになっているインターネットが好きですし、手を動かして、制作しているサイトがどんどん形になっていくのも充実感を感じます。

ディレクターは合わなかったけれど、ひたすら手を動かしてサイトを作っていくコーダーはとても楽しい。

少なくともそれを楽しいと思える内は、Web業界の片隅にでもいられればいいなと思いますし、今後状況が改善してくれればなお嬉しいです。

*1:腐った牛乳と言われることも……