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【書評】くいいじ(安野モヨコ)、歪みの国のアリス(狐塚冬里)、放浪の巫女と狼(鳥居とり)

食べ物連載 くいいじ (文春文庫) 歪みの国のアリス 放浪の巫女と狼

最近読んだ本ですが、ざっくり説明すると、左から食エッセイ、ゲームのノベライズ、民族系ファンタジー小説です。

放浪の巫女と狼はKindle本。
とうとう無線LANを家に導入したので、紙の本だけでなく、Kindle本も物色中です。
以下、ネタバレ書評。

くいいじ

食べ物連載 くいいじ (文春文庫)
安野 モヨコ
文藝春秋 (2013-12-04)
売り上げランキング: 104,049

安野モヨコの食エッセイ。食べているものに関してつらつら綴ったものです。出前のパスタ、フレンチ、和食、(食べ物エッセイなのに)断食などなど。

小さい頃私がかりんとうをモリモリ食べながら
「おばちゃん、これうんこ?」
と聞いたというダイナミックな話がある。
その時おばちゃんは
「うんこと思うなら食べるなよ!!」
と思ったという。
「おやつをくれろとうるさいのでキャベツを丸ごと与えたら、抱きついて延々とかじっていた」

などというエピソードが物語るように、とにかく子どもの頃から食い意地が張っていたそうです。

作中出て来るものがとにかく美味しそう! の一言なのですが、個人的に春の山や太陽、夜の光を美味しそうという部分がなるほど、確かにと思いました。

春の山は美味しいんじゃないか、と思うのだ。
イメージとしてはウエハースのようにあまり厚さの無い、サリッとした歯ごたえの干菓子。指でそっとつままないとすぐくだけてしまう程繊細なそのお菓子をハリハリと口唇で割る様にして食べれば、口の中で桜の風味と思われる薄い甘さが拡がるのだ。

他の季節でも美味しそうなものがあるか、ぜひ聞いてみたいところ。

また、この本の著者の夫がエヴァンゲリオン庵野監督だということを初めて知りました。監督が菜食(肉と魚が食べられない。トンコツスープはOKなので出汁は可っぽい)というのも初めて知りましたし、その生活ぶりがうかがえて面白いかったです。

歪みの国のアリス

歪みの国のアリス
歪みの国のアリス
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狐塚 冬里
PHP研究所
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ナイトメア・プロジェクトのゲームアプリ歪みの国のアリスのノベライズです。

読んだ感想ですが、原作に忠実な出来。
が、率直に言うと忠実過ぎてちょっと個人的には物足りないかも……というところも。

ノベライズなので、作中語られなかった部分をもっと入れて欲しかったかな。

ノベライズの場合、原作に忠実にいくか、オリジナル路線でいくか、原作を掘り下げるかがほとんどになります。
原作のイメージを壊さないというのはとても大事だと思うのですが、歪みの国のアリスの場合、元々がノベルゲームですので、あまりに忠実過ぎると今度は驚きとか意外性、発見がないかなと……。


あとは人称がちょっと気になりました。アリスと亜莉子で変化していくのですが、正直、全部『私』か『自分』でも違和感がない視点の書き方なので……ここは好みかも知れません。

原作に忠実でイメージを壊さない作りですし、アプリと違って音と映像がないのでホラー描写が苦手な人にはおススメかも知れません。

早期購入特典で、シナリオ担当の方が書いたメールが届くそうで、すごく楽しみです。

放浪の巫女と狼

放浪の巫女と狼
放浪の巫女と狼
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とり書房 (2014-07-16)
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民族系ファンタジー。かくれんぼ戦略というブログを書いている方が出したKindle本です。
辺境を放浪する性別のない巫女・カノーイが、自身の死期を悟った親友・ミライノからヤナンという少年を託される、というところから話は始まります。

実はこのカノーイ、元王位継承者の神官に歪んだ執着を向けられ、神殿を出て放浪せざるを得なかったのですが……愛とは、とらしくもなく考え込んでしまいました。

カノーイ自体、巫女でありまた性別もなく、いわゆる『異性の愛』というのを受け入られる立場ではありません。でも向けられるのは、ミライノ以外からは女性に対しての愛情です。

神官からは『自分以外受け入れず、孤独でいること』を強いられ、ヤナンからは『異性に対しての愛』を向けられます。最終的に、神官はカノーイを汚そうとして殺され、ヤナンは狼となってカノーイを守り、共に行くことになります。

話を読んでいると、どちらも執着と言えば執着です。
両者の何が違うかと言えば、神官はどこまでも自分本位であり、ヤナンはたとえ異性として結ばれなくてもカノーイと共に在ることを選んだところでしょうか。

おとぎ話のような、不思議な雰囲気のお話でした。

作中、死ぬことを『丘のかなたへ行く』と表現しているのですが、『死ぬ』と言うより死者に近しいというか慕わしい感じがするので好きな言い回しです。

余談

最近Kindle本を物色しているのですが、普通の本が安くなっていたりするところも魅力ですし、結構個人出版されてる本もあって目移りします(放浪の巫女と狼もそうですし)。
出版社が出している本は編集者が居て、きちんと校正もされていて体裁が整っているのですが、個人出版はそれとはまた違って面白いものがありそうで物色するのが楽しいです。