華胥の幽夢読了
久しぶりに十二国記シリーズを一冊購入しました。
華胥の幽夢という短編集です。
久しぶり、というのは高校の頃に図書館で見つけて以来とても好きな作品なのですが、いかんせん続きが出ない……ということで、卒業後、平均年一冊以下のペースで少しずつ集めています*1。
最近は新潮文庫から新装丁と、多少の語彙の変更と共に出ているようですが、何となくホワイトハート版の方が親しんでいてこちらを選んでしまうのです。
とはいえ、変更部分が気になると言えば気になるので、その内両方揃えるようなことになるのかも知れません。最近12年ぶりに新刊も出ましたし、やっとシリーズが再始動したのかなあ……と。
と、それは置いておくとして、登場人物の中で一番好きなのは楽俊という人物です。辛い境遇に置かれている人だったのですが、尋常でなく人間ができています。
といって人間味はない訳ではなくて、むしろ大変人間臭い人物でもあるところに好感がもてます。
この短編集にはその楽俊ともう一人、陽子という人物の日常が綴られている、『書簡』という話が入っていて、読む度に、『私も頑張ろう』という気になることと、2人の距離感というか関係が好きです。
男女間の友情って表現が難しいところですけれど、こういう付き合い方は良いなあ……と思います。
他に納められている短編も好きなものばかりで、特に.『華胥』という作品は深いです。理想と現実は違うということを、まざまざと思い知らされます。
ただ正義を振りかざしても――事態が好転することはない。
理想に燃えても、それを実現することは難しい。
利権を貪る輩を排除しても、それでは立ち行かなくなってしまう現実。
読みながら、十二国記が好きな理由はこういうところだったんだなと気付きました。
安易なハッピーエンドに持ち込まない。理想と現実というものがあり、一気にうまくいくことなんて何一つとしてない。
それこそ、大きな石をどけるために小石をどけ、石を運ぶ道を確保するために森を切り開き、人を集め、道具を用意し――と遅々として進まないことも、理不尽なこともたくさんある。
過酷な状況の中でも、『神に祈らず自分で最善を尽くす』という人々の姿が、私には好ましいもののようです。
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*1:筆者には何となくこういうところがあって、未完のまま長期間続きが出なかったり、急逝された作家の本など、『続きが出るアテが無いけれど好きな作品』を少しずつ惜しむように読んでいたりする。